2013年9月30日月曜日

散歩するのに絶好の季節

秋が訪れ、しかも夏の熱気がところどころ残っているこの時期こそが、散歩するのに絶好の季節です。
付け加えると、断然、夜がいい。
まだ窓を開け放している家が多く、そこから夕餉の支度の音や匂いが流れてくる。
どこからともなく、風呂場に反響する子供のはしゃぎ声が聞こえる。
テレビの音や、遠慮がちに鳴る楽器の音色も。
生活の匂いが暗い路地の隅から溢れ出て、通り過ぎる私の鼻先をくすぐり、そこで営まれる様々な暮らしを想像します。

いくら歩いても、それほど汗はかかないし、湿ったシャツは夜風で直ぐに乾いてしまう。
散歩コースは小高い丘と、緩やかに傾斜する低地が連続し、その地形に沿った小道が複雑な線を描いている。
煌々と輝く月が顔を出したかと思うと、すぐに雑木林や民家の陰に隠れる。
しばらくすると、意外な場所から月が上る。
そうこうしているうちに、必ず夜道に迷う。
これがまた楽しい。

初めて通る路地で古本屋を見つけ、店先の100円均一の棚をひやかします。
匂いに吊られて、居酒屋の季節の料理が並ぶ品書きを眺めます。
暑くもなく寒くもなく、何かに急かされるわけでなく、静かに街の景色を楽しみます。
いつまでもあるわけでない貴重な時間。
出来ることなら、こんな時間がずっと続くけばいいとさえ思う。

秋の夜の散歩は、私に許された最高の贅沢なのです。



最近お気に入りのお散歩ソング。
気持ちがしっとりとします。

2013年9月28日土曜日

宮崎駿さんのアニメ

宮崎駿さんが引退されるそうです。ああ、またいつもの騒動かいなと思ったら、今回は本気のご様子。
ジブリのアニメは、いいトシをしたおっさんが恥ずかしい気分もありますが、大ファンであります。
最近の作品はそれほどでもないですが、初期の作品には深い愛着があります。
私にとっては、「紅の豚」が一番ですね。次に「天空の城ラピュタ」、その次に「トトロ」という順。
何気なく見始めると、けっきょく最後まで見てしまう作品ばかりです。
おかげでどの作品も最低年一回、トータルでは20回くらいは見てる気がします。
私にとって、回数で匹敵するのは、他には小津安二郎の映画くらいです。

これらに反して最近のは世評とは異なり、いまひとつ魅力に乏しく思えます。
一度見たら、面白いのは確かですが、次はまあいいやという感じですかね。
作品の中にちょっと説教臭い、善悪が見え隠れするからでしょうか。

初期のアニメには、宮崎さんの「素敵」がいっぱい詰まっている。
ご自身の「素敵」をどうやって伝えるかという情熱が、見る者の心を激しく揺さぶります。
「豚」にしろ「ラピュタ」にしろ、最初のシーンから「素敵」が爆発します。
このカットが堪らなく好き、この台詞が格好いい、このシークエンスに卒倒しそうになる。
宮崎駿のアニメには素晴らしい映画に共通したすべてが入っています。
黒澤明やジョン・フォードを連想させるような、映画の極めて高いクオリティをアニメーションで実現したところが、最大の功績といえるのではないでしょうか。

そういえば、かつて宮崎駿と黒澤明の対談番組がありました。
巨匠の前で若き宮崎さんがそれはもうかわいそうなくらい緊張して、こっちまで口の中がカラカラになってしまいました。
アニメと黒沢映画を一緒にするなと苦情が来るやもしれませんが、私の目からは黒沢映画の精神をもっとも受け継いでいるのが宮崎アニメだと思います。

宮崎さんの最後の作品は零戦がテーマだそうですが、私はむしろロバート・ウェストールの「ブラッカムの爆撃機」を原作としたアニメを見たかったです。
それが心残り。

2013年9月16日月曜日

ミルの掃除


 胡椒挽きというのは、毎日使うものだから上等なものになさい、というアドバイスを忠実に守って、おフランス製の分不相応に高価な胡椒挽きを買った。
ところが、やっぱり毎日欠かさず使うんですね。
和洋中、肉はもちろん野菜料理にでも、特に近年風土が熱帯化してしまったせいか、なんにでも胡椒を使います。
そして結婚以来ずっと使い続けて、ん十年、もう十分に元を取ったかなと思った矢先、急に胡椒が挽けなくなってしまいました。

さすがに刃が寿命かと思ったものの、単に捨てるのは勿体ないから、だめもとで胡椒挽きを分解してみました。
意外にも刃の摩耗ではなく、蒸気や油と混じった胡椒の粉が、刃の溝に堅く付着し、胡椒粒を噛砕けなくなっていたのが原因です。
ならば話は簡単、熱湯で汚れを軟らかくし、ブラシでしっかり磨き上げるとすっかり元の状態に戻りました。


たぶんこれ、掃除さえ怠らなければ、個人の寿命を遙かに超えて使えるのでしょう。
真相は知りませんが、自動車のクラッチと同じ加工をした金属部材を使っているので、よそと比べて刃が丈夫なんだという話を聞いたことがありました。
新品同様の切れ味に戻ったミルを回してると、そう思わざるを得ないような説得力を感じます。


調子に乗って、同様に年季の入ったごま挽きもバラして掃除しました。
そうしたら案の定、こちらもゴマの粉が内部で固着。
元通りに戻って、妙に愛着が湧いてきました。

2013年9月14日土曜日

読書の秋近し


漢字の書き取りをやっているうちに、語源を調べることが多くなりました。
むろん国語辞典では間に合わないので、漢和辞典で調べます。
使っているのは「新字源」という、その方面では定番の辞書なのですが、しかし腑に落ちない記述が多くてストレスが溜まる。
お茶を濁すというか、すっきりと論旨がつながりません。
それもそのはず、漢字研究の大本にあたる「説文解字」に資料的不備があって、解釈上の難点が指摘されているという。

昔から気になっていた本がありました。
白川静を読めと、誰かがしきりに耳元で囁き続けます。
漢字の書き取りが目的だったのに、なんでそんなマニアックなことをしなくてはならないのか。
わたしの理性が、冷静に反論します。

ならば最初に範囲を決めて、その中で楽しめばいいと考えて入手したのが白川静の「常用字解」。
中高生から使えるようにという配慮で、わかりやすく記述されているのが特徴ですが、内容的に落ちるものではなく、大人でも充分に読み応えがあります。
「新字源」の解説とは真っ向から対立する部分が多く、さり気ない記述にも熱い学者魂を感じる。

おかげで漢字の勉強をしている時間が楽しくてしようがありません。
抽象的な記号に過ぎなかった文字に、歴史や感情が吹き込まれ、紙の上の記号があたかも意志を獲得したように、ふっと立ち上がる瞬間がある。
ちょうど立体眼鏡で写真を覗き込んで、ハッとする感動です。
こうなるともう止まらない(笑。
次から次と、読むべき本のリストが長くなります。
もうすぐ読書の秋。

2013年9月7日土曜日

今年の新色


空き箱が出たので、さっそく素人工作に励みました。
工作と言っても、骨組みを丈夫に組み直し、ヤスリを掛けて塗装するだけの単純なお仕事。
厄介なのは色決めだったことは、去年と同じです。

色を決める場合は、常にグレーを意識します。
グレーが映える色、グレーに生かされる色。
様々なグレーを思い浮かべ、そのグレーに合いそうな色を探します。
もちろん色の面積も重要。

しかし、いろいろと考える割には、いつも凡庸で無難な色に落ち着く。
たまに冒険することもあるが、それはあとで必ず後悔する。
しょせんは道具なんだから、普段は決して出しゃばらず、必要になったときには、小さく手を挙げて待っている、その程度の配色で満足すべきだと思う。

新旧(左右)の作品を並べて記念撮影。
一緒にテーブルで使うことが多いことから、色が喧嘩しないようにしました。
実際の色は、もっと地味でグレー気味です。


先頃ピンクのクルマが出ましたが、はじめて見たときはぎょっとしました。
我の強そうなフロントマスクに、それでいてどことなく意志の曖昧な形。
でありながら、ガワはピンク。
私が保守的で、目立つのが嫌いな性格だからでしょうが、あの体積でああいった派手な色では、気持ちが不安定になる。
運転に集中できずに、事故を起こしそうです。

もちろん、こういうクルマで元気が出て、毎日が充実するなら充分ありなんですけどね。
人生、イロイロです。