2017年5月30日火曜日

「雨あがりの街」


昭和もそろそろ終わろうかという頃だったか、新聞の投書欄に面白い記事が載っていたことを覚えています。投書主は会社勤めの女性で、ランチタイムにときおり蕎麦屋で日本酒を飲むという内容でした。

ストレスの強い部署にお勤めなのか、その日はいつもの社員食堂ではなく、敢えて誰も知らない蕎麦屋でひっそり仕事の疲れを癒やしている。そんなランチの光景を想像すると、嫌でも物語は広がっていきます。場所はもちろん新橋、風情の残る路地裏に10席程度の静かなそば屋。平日の昼間っから卵焼きを当てに酒を飲んでいても少しも違和感のない店で、入り口に背を向け目立たないように座っている中年の独身女性の姿がある。少々酒を飲んでも顔に出ないだろうし、仮に気づかれても文句を言われない立場の人かもしれない・・・。蕎麦が運ばれてくる暫しの間、呼吸を整えるようにゆっくりと杯を傾けるのでしょうか。そのシーンはどこか向田邦子のドラマの一場面を彷彿とさせます。

かようにわたしの妄想は続くわけですが、そんなシーンが自然と湧き出てくるのは、投書の内容がまさに都会の物語だから。様々な人生が交差する場所だからこそ、ある種の感慨を持って未だにその記事を思い返しているのです。


常盤新平のエッセイ集、「雨あがりの街」がいい。先の投書と同時期の本で、その中の何編かは東京のビジネス街で働く女性たちが主人公になってます。とりわけ「6月の街」というタイトルのエッセイが味わい深い。あたかもスナップ写真のように、たまたま雨あがりの夕方にすれ違った、仕事を終えたばかりの若い女性の姿を簡潔に描写しています。彼女はこれからどこに向かうのだろう。買い物だろうか、デートなのか。もしかすると簡単な夕食をとってひとり映画を見に行くのかもしれない。そういう想像が広がるのも、やはり都会ならではの場面設定だからでしょう。

春が終わりを告げ、夏の気配を感じるこの時分になると、なぜか読みたくなる本です。わたしはずいぶん以前に本をなくしてしまい、幾度も図書館から借りて読んでいます。

2017年5月7日日曜日

連休のお楽しみ。

連休を利用して部屋の片付け、ガーデニングに勤しむのはいつものこと。
あとは昼間っからビールを飲んだり、本を読んだりと、勝手気ままな時間を過ごしている。
例年、まったく代わり映えのしない過ごし方だが、しかし今年はほんの少し、お楽しみを付け加えた。
それは、「世界一おいしいご飯が炊ける」という気合いの入った炊飯器でいろんな料理にチャレンジしてみること。


気になるデザインは可もなく不可もなく、ホーロー鍋とIHヒーターを合体させたらやっぱりこうなりましたというカタチ。
どっしりとした重量感があり、それなりに場所を取るのは仕方ないか。
狭い台所では、存在感がありすぎかな?


世界一、世界一と呟きつつ炊き上がりを待ったご飯に、やっとご対面。
最初に撮影した写真はピンボケだったが、現物のご飯はシャキッとした粒立ちが素晴らしい炊き上がり。


そして肝心の味はどうかというと、食感が少し硬めかなという感じる以外は正直よくわからない。
きっと上等のお米なら違うのだろうけど、普段使いの安いお米なので、まあそれなりにというところだね。



ご飯を炊くことよりむしろ、IHヒーターの温度管理が容易なことを利用して、ずぼらな煮込み料理を作ることに関心がありました。
低温で長時間、コトコトと気長に煮込む料理だと、途中で火が消えたり、逆に焦げ付かせる心配もなく、その時間をほかの用事に回せるからです。

早速に手がけたのが、手羽と大根の煮物。
まずは手羽に焼け目を付け、次に大根と調味料を放り込んで蓋をして、後は低温にセットしてのんびりと出来上がりを待つ。
ずぼらの極みですが、これがいいあんばいに仕上がります。


お次はスジコン。
下調理したスジにコンニャクと調味料を合わせ、気長に気長にコトコトと煮詰めるだけ。
なのに、あんまりにも美味くて、思わず日本酒を買いに走りました。



低予算で、しかも手間を掛けずに美味しい料理を作る。
そういう目的にぴったりの、理想的な調理器具です。
更に、ホウロウ鍋自体が、直火でも使えるというのも、また嬉しい誤算でした。